日々是好日

昨日、深夜のコンビニで流れてきた”BEN E.KING”の名曲。
「Stand By Me」
この曲を聴くと思い出す友人の話をしたい。



１０年くらい前にネット上の掲示板でよく話す奴がいた。
その彼のハンドルネームは「カズ２」で俺が「りょう」。
今となっては曖昧だが、年齢は俺の７つくらい上だったか。
くだらない事を良く話をしていたものだ。

彼はとにかく明るい奴だった。
今思い出してみても、愚痴の一つこぼしたことあったか？
そのくせ人の悩みには真剣に答えていたものだ。
もちろん深刻に答えるではなく、あくまで前向きだ。
そんな彼の明るさに俺も何度も助けられた。
そのうち彼は俺のことを「心の友」と呼んでくれるようになった。
俺はどのくらい彼の力になったのだろうか？それは俺のセリフだ。

ある時俺は２週間ほど東京に出向することになった。
２００１年８月。丁度１ヶ月後に９・１１同時多発テロが起こった年だ。
出向が決まったときに、彼は時間があれば一緒に飲もうと誘ってくれた。
今までネットだけで付き合ってきた彼と二人で飲む。
少し照れくさい気持ちもあったが、嬉しかった。
しかし俺は火の噴いたプロジェクトのヘルプとして行くことになっている。
正直彼と飲む時間が取れるとは思えなかったのだが、
チャンスがあれば、ということでメールを返した。

出向期間は２週間の予定から１ヶ月半にまで伸びてはいたが
結局彼と飲む機会が訪れることなく、宮崎戻る事になった。
彼はとても残念がっていた。
当然俺も約束が果たせなかった事は残念ではあったが、
いずれまた機会があるだろう。

それから程なくして彼からメールが届いた。
病気で入院中だという。病名は「癌」。
全身に転移していると言うことが淡々と書かれていた。
助かる見込みがあるのか、余命がついているのかは分からない。
その時俺がどう思ったのかも思い出せない。
ただそれでも彼からのメールはいつものように明るく、前向きなものだった。
「りょうさん、治ったら一緒に飲みに行きましょう！」
彼にしてみれば、そういう小さな願いも希望だったのだろう。
同情とかではない。本当に俺は彼と飲みたくなったのだ。
「もちろん！　必ず一緒に飲みに行きましょう！」
俺はその日が来ることを心から願ってメールを送った。

その２日後、彼の友人から”彼が亡くなった”とメールが届いた。



ネットだけの繋がりをどう思うかは人それぞれだと思う。
そんなもの友人でもなんでもないという人もいるだろう。
デジタルデータだけで繋がった付き合いだ。
実態がないだけに脆さだけが表に出る。
だからそれを否定するつもりは毛頭ない。
しかし誰がなんと言おうと彼は俺の大事な友人の一人だ。



今でも時々、ふとカズ２を思い出すことがある。
最後にもらったメールも消せずに取ってある。
そして、何より”あの時の約束”はまだ生きている。
いつ俺がそっちに行くかは神のみぞ知るだが、もう少し待っていて欲しい。

命日も忘れてしまった薄情な俺を、覚えてくれてるかも心配はしていない。
カズ２のことだ。必ず憶えていてくれると信じている。
だから今ここで、カズ２との出逢いに感謝するつもりもなければ、
約束が果たせなかった事を詫びるつもりもない。
そんなことは後でじっくり面と向かって言ってやる。
だが、これだけは約束だ。
顔も声も知らない仲だったが”初めまして”は言わないことにしよう。
そしてあの時みたいにバカを言い合って、今度こそうまい酒を飲もう。