日々是好日

男の戦いは、拳だけとは限らない。

あれは忘れもしない小学4年生の夏。
突然何の前触れもなく男の創作丼が
流行ったことがある。
各々の考えてきた丼レシピを発表し、
誰の丼が旨いのかを競うのだ。

いくつになっても男に戦いは必要だ。
当然俺も参戦することにした。
早速家に帰り冷蔵庫を覗き、
ありったけの食材をぶち込んで丼らしきものを作った。
それを思い出しながらノートに纏め、
翌日みんなの前に叩きつけたのだ。

結果はひどい有様だった。
異様に辛すぎるとブーイングの嵐だった。
しかし頑固な俺はアレが旨いと押し通した。
正直レシピは適当だった。

その日の放課後。
小さなことが原因で喧嘩をしてしまい、
しばらく口もきいていないAが
こっそりと俺のところへやってきた。
簡単でうまい丼レシピを教えるという。

俺へのブーイングを不憫に思い、
仲直りのきっかけにとでも思ったのだろう。
俺も今までのことは全て水に流して
有難くレシピを教えて貰うことにした。
やはり持つべきものは友なのだ。

それにしても、目からウロコだった。
本当に簡単だった。
たったこれだけでうまい丼が出来るのか。
俺は礼を言うと、家へと向かってかけだした。
そしてカバンを投げ出し台所へ立つと
声高々に宣言したのだ。

「今日の飯は俺に任せろ！」

夕食の時間になると、家族を座らせ、
絶対に台所を覗くなと釘をさして、
早速俺は料理へ取り掛かった。

しかしレシピは恐ろしく簡単だ。
何の苦労もなく手際よく準備を進める。
丼茶椀に飯を盛り、油揚げを刻んでまぶし、
最後に大さじ1杯くらいの味噌を載せる。
そして「頂きます！」を合図に
仕上げの熱々の湯をかけ豪快に口へと流し込んだ。






ただの味噌汁かけ飯じゃねーか！(しかもちょっと薄い。)

そう気づいた時には遅かった。
まさに文字通り。
俺はAにまんまといっぱい食わされ、
戦いに敗れたのだ。

そしてそうとも知らず家族に振る舞い
みんなで頬張った瞬間のあの沈黙を
俺は今でも忘れない・・・。




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